《からだ》を、二階で横たえてから、モウ五六日|経《た》った朝のことなのである。
お初が、上《あが》って来た。
「検挙《あげ》られたんですとさ、川村が」
「何時《いつ》だ、昨日か[#「昨日か」は底本では「咋日か」]?」
「昨夜《ゆうべ》ですとさ、いい気味だね、畜生、恩知らずが、昨夜《ゆうべ》ひどい目に逢わしたんだってさ」
「フーム」
利平は、グッと頭部の痛みが、除かれたように瞬間感じたのである。社会主義者みたいな、長い頭髪と、賢《かしこ》そうな、小さいがよく冴《さ》えた眼の川村が、急に、小さく小さく哀《あわ》れっぽくなったように思われて来た。十二三歳の小児《こども》のころから、怒鳴りつけられたり、殴りつけられたりしながら、自分に仕事を教わっていたあの頃の、川村の顔が、ありありと彼の眼に映じて来たのだ。
一昨日の[#「一昨日の」は底本では「一咋日の」]晩も、二三十人検挙され、その十日ばかり以前にも、百四五十人検挙された争議団である。いくら三千人からの争議団とは云え、利平たちから考えれば、あまりにもその勝敗は知れきっていた。
「争議が済んだら、俺が貰い下げに行ってやろう?」
そしたら
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