め誘拐」であった。しかしそれも大した功を奏しなかった。そこで今度は、スキャップ政策をとったが、それも強固な争議団の妨碍《ぼうがい》のために、予測程の成功ではなかった。トラックの中に、荷物の間に五六人のスキャップを積み込んで、会社間近まで来たとき、トラックの運転手と変装していた利平が、ひどくやられたのもこのときであったのだ。
それでも、職長仲間の血縁関係や、例えば利平のように、親子で勤めている者は、その息子を会社へ送り込んで、どうやら、二百人足らずのスキャップで、一方争議団を脅《おびや》かすため、一面機械を錆《さび》つかせない程度には、空《から》の運転をしていたのである。
「君、会社の中で養生していた方がいいぜ、争議団本部と、くっつき合っている君のうちなんか、まったく物騒だよ」
仲間にも、しきりと止められた利平であったが、剛情《ごうじょう》な彼は肯《き》かなかった。たかが多勢を恃《たの》んで、時のハズみでする暴行だ。命をとられる程のこともあるまいと思った彼であった。刑事や正服《せいふく》に護《まも》られて、会社から二丁と離れてない自分の家《うち》へ、帰ったのだった。そして負傷した身体
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