《かぶ》って、眼を閉じた。いろんな事が頭をひっかき廻した。
 あのときも……。
 四五人のスキャップを雇い込んで、××町の交番横に、トラックを待たせておいて、モ一人の家《うち》へ行こうと、屈《まが》った路次《ろじ》で、フト、二人の少年工を発見《みつけ》出したのだ。幸いだと思って、「オイ、三公、義公《よしこう》」と呼んだら、二人は変装している自分を、知ってか知らずにか、振り返って近づいて来た、と、二人は「宮本利平だ!」と、冷たく云い放《はな》って、踵《きびす》を返してバタバタ逃げ出してしまった。奴らは見張《みはり》をしていたのだ。生意気に「宮本だ」と、平常親より怖《おそ》れ、また敬っている自分へ、冷たく云い放ったときも、あの眼だ。
 トラックを急がせて、会社近くの屈《まが》り角へ来たとき、不意に横合から、五六人の男が、運転手台へ飛び掛《かか》った。スワと思って、身がまえしたとき、運転手台の後の窓を破って、ジリ、ジリ、と詰め寄せて来た時の、あの川村の眼……。
「あの眼は、親だろうと、恩人だろうと殺し兼ねない※[#感嘆符二つ、1−8−75]」
 利平は、身内を、スーッと走る寒さに似た恐怖を感
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