傍点]をぬく。諸君がとんぼとりにつかうもち[#「もち」に傍点]は、その芋をつぶすときに出来るおねば[#「おねば」に傍点]のことであるが、さてそのこんにゃく[#「こんにゃく」に傍点]屋さんは、はたらき者の爺さんと婆さんが二人きりで、いつも爺さんが、
「ホイ、きたか――」
 と云って私にニコニコしてくれた。
「きょうはいくつだ、ウン、百くらい持っていって売ってこい」
 頭をなでてくれたり、私が計算してわたす売上金のうちから、大きな五厘銅貨を一枚にぎらしてくれることもあった。
 五厘銅貨など諸君は知らないかも知れぬが、いまの一銭銅貨よりよっぽど大きかったし、五厘あると学校で書き方につかう半紙が十枚も買えた。私はこんにゃく一つ売って一厘か一厘五毛の利益だったし、五十みんな売っても五六銭にしかならない。
 ところが、その五十のこんにゃくはなかなか重い。前と後ろに桶《おけ》に二十五ずついれて、桶半分くらい水を張っておかないと、こんにゃくはちぢかんでしまうから、天秤《てんびん》をつっかって肩でにないあげると、ギシギシと天秤がしま[#「しま」に傍点]るほどだった。
 ――こんにゃ[#「こんにゃ」に傍点
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