こんにゃく売り
徳永直

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)温《あたた》かい

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)黒白|斑《まだ》ら

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)つくりごと[#「つくりごと」に傍点]
−−

   一

 私は今年四十二才になる。ちょうどこの雑誌の読者諸君からみれば、お父さんぐらいの年頃であるが、今から指折り数えると三十年も以前、いまだに忘れることの出来ないなつかしい友達があった。この話はつくりごと[#「つくりごと」に傍点]でないから本名で書くが、その少年の名は林茂といった心の温《あたた》かい少年で、私はいまでも尊敬している。家庭が貧しくて、学校からあがるとこんにゃく[#「こんにゃく」に傍点](蒟蒻)売りなどしなければならなかった私は、学校でも友達が少なかったのに、林君だけがとても仲よくしてくれた。大柄な子で、頬《ほ》っぺたがブラさがるように肥《ふと》っている。つぶらな眼と濃い眉毛を持っていて、口数はすくないがいつもニコニコしている少年だった。もっとも林君もたっしゃでいてくれればもうお父さんに
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