]はァ、こんにゃ[#「こんにゃ」に傍点]はァ、
 大きな声でふれながら、いつも町はずれから、大きな屋敷が沢山ある住宅地の方へいった。こんにゃ[#「こんにゃ」に傍点]はァ、というのは、こんにゃく[#「こんにゃく」に傍点]だ、こんにゃく[#「こんにゃく」に傍点]だという意味で、大声でふしをつけると、ついそんな風に言葉がツマってしまうのである。
 ――こんにゃ[#「こんにゃ」に傍点]はァ、こんにゃ[#「こんにゃ」に傍点]はァ、
 腰で調子をとって、天秤棒をギシギシ言わせながら、一度ふれては十間くらいあるく。それからまた、こんにゃはァ、と怒鳴るのだが、そんなとき、どっかから、
「――こんにゃく[#「こんにゃく」に傍点]やさーん」
 と、呼ぶ声がきこえたときの嬉《う》れしさったら、まるでボーッと顔がほてるくらいだ。
 五つか六つ売れると、水もそれだけ減らしていいから、ウンと荷が軽くなる。気持もはずんでくる。ガンばってみんな売ってゆこうという気になる。
「こんちはァ、こんにゃく[#「こんにゃく」に傍点]屋ですが、御用はありませんか」
 一二度買ってくれた家はおぼえておいて、台所へいってたずねたりす
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