中さんのうしろで、並んでみていた子供のうちから誰れかが出てきて、
「オイ、徳永くん」
と耳許《みみもと》で云った。おどろいて私が顔をあげると、それが同級生の林茂だった。彼は黙って私の桶《おけ》や天秤棒《てんびんぼう》をなおしてくれ、それからくるりと奥さんの方へむきなおると、
「小母《おば》さん、すみません」
と云ってお辞儀した。林は口数の少ない子だから、それだけしか言わなかったが、それはあきらかに、私のために詫《わ》びてくれてるのだということが、誰にもわかった。
それで、こんどはいくらかおどろいたような奥さんの声が訊《き》いた。
「おや、この子、茂さんのお友達?」
私は林が何と答えてくれるだろうと思った。また犬の頭をなでている女中さんも、うしろにたってみている子供たちも、一緒に林の顔を見ていた。
「ええ」
すると林は、それだけだが、非常にはっきりと、顔をあげて言ったのだった。私はその瞬間、一ぺんに身体《からだ》があつくなってきて、グーン、グーン、と空へのぼってゆく気がした。
二
林は五年生のとき、私たちの学校へ入ってきた子だった。ハワイで生れてハワイの小学校にあ
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