して、ものうさそうにそっぽむいているのであった。
「犬が怖かったもんですから」
そういうと、女中さんが、
「お前が逃げるからだよ、逃げなきゃ跳びつきなんかしやしない、ねえクマ、そうでしょ」
犬の頭を撫《な》でながら、そう言ったので、いつかこれも騒ぎをききつけて、庭の方から廻ってきていた四五人の子供たちのうちからクスクスわらう声がきこえた。男の子も女の子もいるようだったが、私はますますはずかしくなって顔をあげられない。
「三本、五本と、ああ、これも折れてる――」
奥さんは菜園のなかを、こごんで折れてしまった茄子をかぞえてあるきながら、
「ほんとに九本も、折っちまったじゃないか、折角《せっかく》旦那様が丹精なすってるのに」
「……………」
私は何度も「すみません」とお辞儀したが、それより他に言葉もめっからないので、しまいには黙って頭を低《さ》げていた。泣きだしたくなるのを我慢して。
「すむもすまんもありゃしないよ。こんにゃく[#「こんにゃく」に傍点]なんか要《い》らないんだから、さっさとおかえり……」
私は着物についた泥土をはらって、もう一度お辞儀した。すると、そのとき奥さんや女
前へ
次へ
全18ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳永 直 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング