かって叫んでいるのであった。
「こんにゃく[#「こんにゃく」に傍点]屋がお菜園をメチャメチャにしてしまいましたわ」
 私もそれで気がついた。幸いこんにゃく[#「こんにゃく」に傍点]桶は水がこぼれただけだったが、私の尻餅ついたところや、桶のぶっつかったところは、ちょうど紫色の花をつけたばかりの茄子《なす》が、倒れたり千切《ちぎ》れたりしているのであった。
「なにさ、おやおや――」
 玄関の格子戸《こうしど》がけたたましくあいて、奥さんらしい女の人がいそいで出てきた。
「まあ、大変なことをしてくれたネ。こんにゃく[#「こんにゃく」に傍点]屋さん、これはうちの旦那さまが丹精していらッしゃるお菜園だよ、ホンとにまァ」
 奥さんは、私の足もとから千切《ちぎ》れた茄子《なす》の枝をひろいあげると、いたましそうにその紫色の花をながめている。私もほんとに申訳ないことをしたと思った。私も子供だけれど、百姓の子だから、茄子がこんなに花をつけるまでどんなに手数がかかるかを知っていた。
「どうもすみません」
 お辞儀しながら、私は犬の方を見た。しかし犬はもうけろりとして、女中さんの足許《あしもと》に脚をなげだ
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