たが、どうも手答が無い。
 其処へ、検事局から、山井《やまい》検事が、書記を連れて、出張して来た。

     (五)

 中肉中背、濃い眉毛と少し大き過ぎる締った口の外には特長のない、眼鏡も髯《ひげ》もなく、毬栗《いがぐり》頭で、黒の背広に鼠色《ねず》のネクタイという、誠に平凡な外貌《ようす》の山井検事が、大兵肥満で、ガッシリした、実行力に富む署長と、相対した時には、佳いコントラストを為した。
 此年若な、見立てのない青年検事を向うに立てた時、署長は思った。役目の手前だ、拠無《よんどころな》い。斯様な青二歳に何が判るかマア此方で御膳立てをしてやるから、待ちなさい。斯様な場合にいくつもいくつもぶッ突かって修業をしてから、初めて物になるんだヨと。
 腹の中で、こんなことを考えて居るのを、当の相手の検事は知ろう筈がない。署長と警部の調査報告を、平凡な顔で謹聴して、一句も洩さず頭に入れる。所々で、ハアハアと謙遜な相の手を挟んだ。
 報告が、一と通り済むと、夫では現場へ廻りましょうと座を立った。
 屍体を巨細《こさい》に視た上、煤けた部分を払わせて、熟々《つくづく》と眺めて居た山井検事は、更に
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