頸の部分、手拭の巻きつけてある工合や、頸に喰い込んでる有様等、詳細に観察した後、二三の質問を、警察医に発した。次に現場の踏査に移り、慎重に視察した揚句、署長にそう言って屍体のあった周囲《まわり》二メートル平方の広袤《ひろさ》を、充分に灰を篩《ふる》わせた。
「此屍体は、大学へ送って解剖に附することに仕ましょう。何《いず》れ明日に廻りましょうナ」
 署長の井澤《いざわ》さんは得々然《きをよく》して、
「マア此事件も大事《おおごと》にならずに済み相ですネ、犯人が、手拭が自宅の物だと自白はして居るし……」
「井澤さん、大事にならずに済み相だ事は私も同感ですが、犯人[#「犯人」に傍点]とか自白[#「自白」に傍点]とか云うのは如何ですか。夫れは此焼けた屍体が、他殺だと決った場合でしょう、今では、勝次郎が承認[#「勝次郎が承認」に傍点]したと云うべきでしょう」
「エッ之が他殺じゃ無いかも知れんと云われますか?」
「確定は解剖の結果に俟《ま》たなくては成らないが、今私一個の推定《かんがえ》では、他殺では無さ相です」
「ジャ自殺ですか」
「自殺とも思いません」
「そ、そんな、之丈証拠が揃って……」

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