しちゃ大変だ、師匠を誘って、何時《いつ》もの、砂糖問屋の越前屋さんへ行くことにしてあると話すと、今度ァ越前屋の出戻りの娘さんも、清元の相弟子だから、怪しいと、ヤに因縁を付けて嫉妬立てるし、今夜は、咽《のど》ッ風邪で熱があって苦しいのだから、家に居て看病して呉れる位の真情《じつ》が有りそうなものだとか厭味らしく抜かす。締めようとする帯を、引奪《ひったく》ったから此方もカッとして殴り倒して大急ぎで飛出して、直に越前屋へ行きました。エエ、火事だと言われた時には、越前屋でラジオを聞いてたのです。決して間違ったことは致しません。其手拭は、確に自宅《うち》のです。出掛る前には何処にあったか、覚えは在りません。
 保険は去年の暮に、以前横浜で懇意にして居た男が、勧誘員になって訪ねて来て、強《た》って這入れと勧めるから、両人共《ふたりとも》加入《はい》りました、其時、細君《おとき》が、保険をつけると殺される事があると言ったのが原因《もと》で、大喧嘩をして、お叱りを受けたことがあります。
 其手拭は、浅草の今○ので二三本ある筈です」
 是非共、要領を得ようと、署長はかなり骨を折って、多少高圧的に詰問もし
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