もなく、厳重に行われたことは勿論だ。
勝次郎は、中肉、寧ろノッポの方で、眼付きは剛《きつ》いが、鼻の高い、浅黒い貌《かお》の、女好きのする顔だった。
声は少し錆《さび》のある高調子で、訛《なまり》のない東京弁だった。かなり、辛辣《しんらつ》な取調べに対して、色は蒼白《あおざ》めながらも、割合に冷静に、平気らしく答弁するのが、復《また》、署長を苛立《いらだ》たせた。
「此奴中々図々しいぞ、何か前科があり相だ。早速取調べさせよう」
と署長は考えた。
然《しか》し本人の答弁は、キッパリして居た。
「お時をドウするなんて事は、断じて有りませんし、そんな事は考えた事も有りません。
夫れァ、喧嘩も仕ました、常平生《つねへいぜい》、余り従順《おとな》しく無い奴で、チットは厭気のささないことも無かったんです。何しろ、嫉妬焼きで、清元の師匠と、変だなんて言いがかりを為るのが余り拗《くど》いので、今夜も殴《は》り倒して遣りました。一体、今夜は、大師匠(延津○の師匠|喜知太夫《きちだゆう》)が、ラジオで、『三千歳《みちとせ》』を放送すると云うんだし、丁度今、夫れを習って居るんだから、聞き外《はず》
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