た。只、一体が穏当《おだやか》でない性質《たち》の処へ、料理人に殆《ほと》んど共通な、慢心ッ気が手伝って到る所で衝突しては飛出す、一つ所に落着けず、所々方々を渉《わた》り歩いたものだ。現に、浅草の方も、下廻りや女中に、小ッ非道く当る上に、其所の十二三になる娘分の児を蹴ッ飛ばしたとかで、主人がカンカンに怒ると、反対《あべこべ》に、出刃を振廻したとか、振廻さぬとかで、結局|失業《くび》になって此方、ブラブラして居る。酒もタチが善くない方で、道楽も可成りだそうな。細君は二つ下の二十六で大柄な女で、縹緻《きりょう》は中位だが、よく働く質《たち》だ。お針も出来るし、繰廻しもよくやって居た。三年越し同棲《いっしょ》に成って来たと云うが、苦味走った男振りも、変な話だが、邪慳《じゃけん》にされる所へ、細君の方が打ち込んで、随分乱暴で、他所目《よそめ》にも非道いと思う事を為るが、何様《どう》にか治まって来た。只、勝次郎が、可成盛に漁色《のたく》るので、之が原因《もと》で始終中《しょっちゅう》争論《いさかい》の絶え間が無い。時々ヒステリーを起して、近所の迷惑にもなる。
「何しろ十月許りで、もう店賃《たなち
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