た。
 焼け膨れて、黒く成って、相好は変って居るが、十目の視る所、お時に相違は無かった。然し其屍体の[#「其屍体の」に傍点]頸《くび》には手拭がキリリと巻き付いて[#「には手拭がキリリと巻き付いて」に傍点]、強く強く[#「強く強く」に傍点]、膨れた頸に喰い込んで居る[#「膨れた頸に喰い込んで居る」に傍点]、掘り出した者が、アッと、思わず抛《ほう》り出したも無理はない。
 事件は急に重大に成って、署や検事局へ電話、急使が飛ぶ。
 亭主の勝次郎は、早速拘引される。後の、近所の噂は尾鰭《おひれ》が付いて、テンヤワンヤだ。足袋屋の主人《あるじ》は、其長屋の家主なので、一応調べの上、留め置かれた。辰公の参考人として取調べられたのは申す迄《まで》も無い。

     (四)

 大家さんの足袋屋の主人の陳述《もうしたて》は次の如うだ。
 火元の勝次郎夫婦は、十月程前に、芝の方から越して来た。勝次郎は、料理屋の板前で、以前《もと》、新橋のK……で叩き上げた技倆《うで》だと、自慢してる丈の事は有って、年は二十八だが、相応に庖丁も効き、つい此間迄は、浅草の、好く流行る二流所の割烹《りょうりや》の板前だっ
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