な》る音。有《あら》ゆる騒音の佃煮《つくだに》。
所謂《いわゆる》バラック建ての仮普請《かりぶしん》が、如何《いか》に火の廻りが早いものか、一寸《ちょっと》想像がつかぬ。統計によると、一戸平均一分間位だ相な。元来《もともと》、木ッ端細工で、好個《いい》焚付けになる上に、屋根が生子板で、火が上へ抜けぬので、横へ横へと匍うからだろう。
小火《ぼや》で済めば、発見者として、辰公の鼻も高かったのに、生憎、統々本物になった許《ばか》りに、彼にとっても、迷惑な事になって了った。
(三)
三軒長屋を四棟焼いて、鎮火は仕たが、椿事《ちんじ》突発で、騒は深刻になって来た。
辰公の見たのが、右側の三軒目で、其処には勝次郎《かつじろう》と云う料理職人の夫婦が、小一年棲んで居る。火が出ると、間も無く近所に居たと云う、亭主の勝次郎は、駆けつけて来たが、細君《かみさん》のお時の姿が見えない。ことに依ると焼け死にはせぬかと、警察署の命令で、未だ鎮火《しめ》りも切らぬ灰燼《はい》を掻《か》いて行くと、恰度、六畳の居間と勝手の境目に当る所に、俯向《うつむ》けに成った、女の身体が半焦げに焼けて出て来
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