くて、聞くのに草臥《くたび》れる。其処へ行くと、「ニュース」は素敵だ。何しろ新材料《はやみみ》と云う所《とこ》で、近所の年寄や仲間に話して聞かせると辰公は物識《ものし》りだと尊《た》てられる。迚も重宝《ちょうほう》な物だが、生憎《あいにく》、今夜は余り材料《たね》が無い。矢ッ張り寒い所為で、世間一統、亀手《かじか》んで居るんだナと思う。今夜は後席に、重友《しげとも》の神崎與五郎《かんざきよごろう》の一席、之で埋合せがつくから好い……
と、ヒョイッと見ると向側の足袋屋《たびや》の露地の奥から、変なものが、ムクムクと昂《あが》る。アッ、烟《けむ》だ。火事だッと感じたから「火事らしいぞッ」と、後に声を残して、一足飛に往来を突切り、足袋屋の露地へ飛込んだ。烟い烟い。
右側の長屋の三軒目、出窓の格子から、ドス黒い烟が猛烈に吹き出してる。家の内から、何か咆《うな》る如《よう》な声がした。
火事だアッと怒鳴るか、怒鳴らぬに、蜂の巣を突ついた様な騒ぎで、近所合壁は一瞬時に、修羅の巷《ちまた》と化して了《しま》った。
悲鳴、叱呼《しっこ》、絶叫、怒罵と、衝突、破砕《はさい》、弾ける響、災の吼《う
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