今のヒステリーの発作を起して痙攣ける。前後不覚でアルコールを蹴飛ばす。其内に燃え移った火や烟に責められて、初めて吾れに返って、逃げようとしたが、寒い晩で戸が閉じてあって出られずに、死んだとする。
 吸入器から火事を出すことは随分多く、病院では殊《こと》に之れに注意を払う習慣だそうです。
 要之《つまり》、火を出した時は当人は活きていて然も動けなかった[#「活きていて然も動けなかった」に傍点]のです。活きて居て初めから動ければ直に逃げる訳でしょう。ア、砂糖問屋の者を呼込んで下さい」

     (六)

 越前屋の二番番頭が始終の様子を知って居るというので出頭した。二十五六の小粋な男だ。
「ヘイ、今夜は勝次郎さんは何を置いても喜知太夫の三千歳は聞きに来る筈だ、気早なのに似合わず大分遅いと話してたら演芸放送に移ると間もなく来ました。最初は、吉住小三治の越後獅子でしたが、中途だったから挨拶もしませんし確な時刻は判りません」
 今度は辰公が訊問された。初めは発見者だから定めし賞めて呉れるだろうと思ってたのに、警官が大分高飛車に出たので大に感情を害してプリプリして居た。
「君は烟の出る窓の中で、
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