化け

冬は
夜になると
うっすらした気持になる
お化けでも出そうな気がしてくる

踊《おどり》

冬になって
こんな静かな日はめったにない
桃子をつれて出たらば
櫟林《くぬぎばやし》のはずれで
子供はひとりでに踊りはじめた
両手をくくれた顎《あご》のあたりでまわしながら
毛糸の真紅《しんく》の頭巾《ずきん》をかぶって首をかしげ
しきりにひょこんひょこんやっている
ふくらんで着こんだ着物に染めてある
鳳凰《ほうおう》の赤い模様があかるい
きつく死をみつめた私《わたし》のこころは
桃子がおどるのを見てうれしかった

素朴《そぼく》な琴《こと》

この明るさのなかへ
ひとつの素朴な琴をおけば
秋の美くしさに耐えかね
琴はしずかに鳴りいだすだろう

響《ひびき》

秋はあかるくなりきった
この明るさの奥に
しずかな響があるようにおもわれる



霧がみなぎっている
あさ日はあがったらしい
つつましく心はたかぶってくる

故郷《ふるさと》

心のくらい日に
ふるさとは祭のようにあかるんでおもわれる

こども

丘《おか》があって
はたけが あって
ほそい木が
ひょろひょろっと まばらにはえて
前へ 次へ
全13ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
八木 重吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング