花さけば
こころ おどらん



夜になると
からだも心もしずまってくる
花のようなものをみつめて無造作《むぞうさ》にすわっている

日が沈む

日はあかるいなかへ沈んではゆくが
みている私《わたし》の胸をうってしずんでゆく

果物《くだもの》

秋になると
果物はなにもかも忘れてしまって
うっとりと実《み》のってゆくらしい



秋だ
草はすっかり色づいた
壁のところへいって
じぶんのきもちにききいっていたい

赤い寝衣《ねまき》

湯あがりの桃子は赤いねまきを着て
おしゃべりしながら
ふとんのあたりを跳《は》ねまわっていた
まっ赤《か》なからだの上したへ手と足とがとびだして
くるっときりょうのいい顔をのせ
ひょこひょこおどっていたが
もうしずかな障子《しょうじ》のそばへねむっている



ながいこと病《や》んでいて
ふと非常に気持がよいので
人の見てないとこでふざけてみた

奇蹟《きせき》

癩病《らいびょう》の男が
基督《キリスト》のところへ来て拝《おが》んでいる
旦那《だんな》
おめえ様が癒《なお》してやってくれべいとせえ思やあ
わしの病気ゃすぐ癒りまさあ
旦那なおして
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