A肖顔《にがほ》や枯れた花々や
それのかをりは果物《くだもの》のかをりによくは混じります。

おゝいと古い食器戸棚よ、おまへは知つてる沢山の話!
おまへはそれを話したい、おまへはそれをささやくか
徐《(しづ)》かにも、その黒い大きい扉が開く時。
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 わが放浪


私は出掛けた、手をポケットに突つ込んで。
半外套は申し分なし。
私は歩いた、夜天の下を、ミューズよ、私は忠僕でした。
さても私の夢みた愛の、なんと壮観だつたこと!

独特の、わがズボンには穴が開《あ》いてた。
小さな夢想家・わたくしは、道中韻をば捻つてた。
わが宿は、大熊星座。大熊星座の星々は、
やさしくささやきささめいてゐた。

そのささやきを路傍《みちばた》に、腰を下ろして聴いてゐた
あゝかの九月の宵々よ、酒かとばかり
額《ひたひ》には、露の滴《しづく》を感じてた。

幻想的な物影の、中で韻をば踏んでゐた、
擦り剥けた、私の靴のゴム紐を、足を胸まで突き上げて、
竪琴《(たてごと)》みたいに弾きながら。
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 蹲踞


やがてして、兄貴カロチュス、胃に不愉快を覚ゆるに、
軒窗に一眼《いちがん》あ
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