ヤ。

若い兵卒、口を開《あ》き、頭は露《む》き出し
頸は露けき草に埋まり、
眠つてる、草ン中に倒れてゐるんだ雲《そら》の下《もと》、
蒼ざめて。陽光《ひかり》はそそぐ緑の寝床に。

両足を、水仙菖《(すゐせんあやめ)》に突つ込んで、眠つてる、微笑むで、
病児の如く微笑んで、夢に入つてる。
自然よ、彼をあつためろ、彼は寒い!

いかな香気も彼の鼻腔にひびきなく、
陽光《ひかり》の中にて彼眠る、片手を静かな胸に置き、
見れば二つの血の孔《あな》が、右脇腹に開《あ》いてゐる。
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 食器戸棚


これは彫物《ほりもの》のある大きい食器戸棚
古き代の佳い趣味《あぢ》あつめてほのかな※[#「木+解」、第3水準1−86−22]材《(かし)》。
食器戸棚は開かれてけはひの中に浸つてゐる、
古酒の波、心惹くかをりのやうに。

満ちてゐるのは、ぼろぼろの古物《こぶつ》、
黄ばんでプンとする下着類だの小切布《こぎれ》だの、
女物あり子供物、さては萎んだレースだの、
禿鷹の模様の描《か》かれた祖母《ばあさん》の肩掛もある。

探せば出ても来るだらう恋の形見や、白いのや
金褐色の髪の束《たば》
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