果して過去の名曲を保存する事になるでしょうか。私は保存の方法としてならば、それは甚だ下らない事だと思います。
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博物館は非常に大切な物です。中に保存された古い物が今の私共の生活に役立たないし、また将来も役立つまいからといって、私は博物館をぶちこわせとはいいません。そのようにあらゆるニッポンの古音楽は是非とも完全に保存されなくてはなりません。しかし三味線は今当分堅固な生きた特殊階級の人間で作った博物館に入れられて保存されております。音楽教育の材料に「松の位の外八文字」を使おうというような老人諸君が、つまりその生きた博物館です。私共は三味線の保存については当分心配いりません。
私はこの機会に、ニッポン音楽の保存について、是非とも諸君に訴える事があります。それはニッポンの民謡の保存であります。ニッポンの特殊階級はそれぞれ自分の音楽を作らせて、今日まで保存して来ました。ニッポンの平民の間からは民謡という一種の音楽が自然に生れて来ました。これこそ偽らないニッポン人の心の声です。しかしこの民謡は保護してくれる特殊の階級がありません。社会の事情が変るに従って亡びてゆくだけです。
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