ら、同じ夢を同時に二人が見るはずはないね――」
 母の顔は蒼ざめていた。
「旦那様、なんだか私も胸苦しかったですよ。なにかこの家は、ぶきみでございますよ」
 かやは、寝巻の襟をかき合せて、ぞッとしたように言った。すると書生の徳吉さんと父が、
「そんな馬鹿なことがあるものか」
 と、二階へ上っていったが、やがて降りてくると、
「布団もぬれてないし、鼠一匹いないじゃないか。二人ともねぼけたんだろう。アハヽヽ……」
 と大きな声で笑った。それを聞くと、もうじき夜が明けるから、いっそ起きてしまおうと言って、台所へ行ってゴトゴトと音を立てていた母が、
「でもあなた! 考えてみれば大きな家の割合いに家賃が安いじゃありませんか。すこし安すぎますよ」
 と、眉をひそめていった。
「アハヽヽヽ、幽霊などこの世にあるものか、馬鹿な! きっと二人共胸の上に手でものせて寝ていたのだろう。よーし、あしたの夜は、わしが二階へ寝てみよう」
 父は又大声で笑ったが、いつのまに夜が明けたのか、コトコトという、牛乳屋の車の音が外に聞こえた。

       2

 半月型に外に出ている井戸のまわりに、山びるのように太いみ
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