!」
いきなり二つの眼球が、ポタリと私の顔の上に落ちてきた――と思うや、まるで崩れるように、音を立てて老婆の顔が、私の上にかぶさってきた。……私は狂気のようにもがいた。と、まるで真空状態からぬけたように、私の体はスポンととびあがった。私は次の瞬間、
「ワアーッ」
と叫んで隣室と境いの襖を蹴破った。
「姉さん!」
「………」
「おばあさんが出た」
「おばあさんだア……」
二人は階段をかけ下りたが、途中で二人共足を踏み外してしまった。そして申し合わせたように気を失い、息をふき返したのは、夜中の二時だった。家中は大騒ぎになった。
「おばあさんの幽霊だって?……そんな馬鹿な」
父は夢でも見たのだろうと言って笑った。しかし、その時は夢中で気付かなかったが、姉も同じ頃同じ目にあっていたのだった。だから私が襖を蹴破った時、姉はすでに起きていて、期せずして「おばあさんがでた」と叫び合ったのだ。姉と私は、女中のかや[#「かや」に傍点][#「女中のかや[#「かや」に傍点]」は底本では「女中のか[#「のか」に傍点]や」]がいれてくれた熱い茶で、やっと人心地をとりもどした。
「ほんとにおかしいね。夢な
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