幽霊
小野佐世男
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【テキスト中に現れる記号について】
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(例)かや[#「かや」に傍点]
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1
残暑がすぎ、凉風がさわやかに落葉をさそう頃になると、きまって思い出すことがある。
私はまだ紅顔の美少年(?)だった。その頃、私達一家は小石川の家から、赤坂の新居へ移った。
庭がとても広かった。麻布の一聯隊の高い丘が、苔むした庭の後にそびえ、雑草やくるみの木が、垂れさがるように見える空の上に生い茂っていた。また、丘の下のせいかじめじめとしていて、いちじくの葉が暗い蔭をところどころに手をひろげ、庭の奥の方は陽も射さぬほどだった。
黒板塀に囲まれた小粋に見えるこの家は、風流気の多い父の好みにぴったりと合っていた。かなり大きな家で、二階は十畳の客間の他に、八畳と六畳の間があり、私の部屋はこの六畳の間で、隣りの八畳は二番目の姉の居間にあてがわれた。父たちの他の者は階下に住むことになった。
台所がばかに広く、子供心に私は、雨の日はここで友達と遊べるなと、秘かに喜こんだものだが、……たたきの所に直径五尺ほどの大井戸
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