の布団の上に這い上ってきた。枯木のように痩せ細った両手が、足から膝へ……。
老婆の重みが、布団を通して感じられた。脚から腰へ、老婆の動きにつれてびっしょり冷たい水が浸み通ってくる。眼は私をみつめたままだ。うらみをふくむのか、うったえるのか、へばりつくように迫ってくる。――腹に乗り上ってきた……。頭のずいからでも流れ出るのであろうか、水の雫は後から後からたらたらと、顔中に流れ、口にあふれる。歯ぐきから吹きだした血は、顎から糸のようにこぼれる。眼玉は生柿色。グラグラの前歯からは地鳴りのようなうめきがもれる。眼を外らそう、せめて頸だけでもねじろうとするが、全くいうことをきかない。やがて、重さが胸にきた。蜘蛛のように細い手が、私の首にからまってきた……。
老婆の顔がすぐ目の前にあった。額のしわが一本々々見える。ぬれ髪が私の顔を覆った。氷のように冷たい息が、血をふくんでふりかかり、むせぶような囁きが耳に入ってきた。目が血ばしっている。と、血のにじんだその眼球が、見る見るうちにふくれあがってぽたり、ぽたりと、私の頬といわず顔といわず、顔中に血が滴り落ちてきた。もう私は息もできなかった。
「あッ
前へ
次へ
全12ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小野 佐世男 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング