ゃま、ばかに淋しくていやですね。お台所にいると、なにかゾクゾクしてくるんですよ」
夜具を敷く女中のかや[#「かや」に傍点]が私にこう話しかけた。私は本箱を整理してから、夜具にあおむいて足を思いきりのばした。
窓をしめたせいか、部屋の中はいやに蒸し暑い。だが引越の疲れが出たのか、私はいつか深い眠りに陥ちていった。
それからどのくらい時刻がすぎたか分らないが、ふと眼がさめた。――というよりも何者かに突然起こされたように眼があいたのだ。
頭は不思議と冴えていた。天井裏をながめる私の眼には、木目までもがはっきりと見えた。壁に目を移すと、額縁が曲って掛っている。(朝になったら真直ぐにしよう)と私は思った。
私はまた目をつぶった。だがどうしたことか少しも眠くない。と、その時だ、掛布団の足の先の方にものの動く気配を感じたのは……。猫でも迷いこんできたかと、私はふと頭をもちあげたが、とたん、
「アッ――」
と息をのんだ。
首! 水でも浴びたようにぐっしょりぬれた生首が見えた。私は二、三度目をしばたたいたが夢でも幻でもなかった。生きた生首だった。どす黒い口許から白い歯が震え、何か蚊の鳴くよ
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