谷から聞いたのだが、
「何しろ熱病ですなア、幕が上れば、何んでもかんでも、ドッとお客さんは興奮してしまうのです。怖いようなものですよ、日本中の生きものが猫に至るまで、ジャズに浮されているように思われますよ、自動車まで唯今はジャズの調子で、家なんかに飛び込んだりしますし、ジャズ・シンガーやバンドマンの連中はサイン攻めで街も歩けませんよ、驚きましたなァ――」
大眼鏡の奥で眼をくるくる廻していたのである。
法悦の夢想境
曲目は進んで五彩のスポットをあびて、ピンク色のイヴニングに大輪の紅バラを胸に、メリー大須賀歌手が、艶麗な姿でマイクにころばす、ナイヤガラのメロディー、いつとはなしに暗い客席に合唱となって伝わりくるこの興奮は、かつて見たことのない雰囲気ではないか。ティーブ釜苑の歌うハリハリハリの時に至っては、客席も調子を合せてハリハリハリと大コーラス、もしこれが普通の音楽会であったなら、その音楽会はぶちこわされてしまうところでありましょう。
ジャズというものは、このように人心にすぐ飛び込み、夢想境の法悦にひき入れてしまうものか。むしろ不思議ではないか。左から右から面白く
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