わ、やっぱりラグビーやるだけあって、あの物凄い切符売場で買えたわね」
「すごいね、御覧よ、おかげでワイシャツやぶいちゃったよ、なんてものすごい人だろう」
やっと指定席に坐って汗をふいたのである。日本一巨大なる劇場といわれる国際が、立錐の余地もなく廊下にあふれて、若い青年や少女がひしめいている。アア世は正にジャズ狂時代である。
開幕のベルが鳴りひびいて、静かに緞帳が上げられるや、待ってましたと客席は嵐のような拍手、舞台一ぱい絢爛と飾られた雛段には、スター・ダスターズのドラム、トロンペット、サクソフォン、キラキラ星の如く銀色を放つ楽器の数々が眼もまばゆい位、チェックのスーツを着た、渡辺弘の派手やかなタクトにわき起るようなジャズのメロディー、その時、横飛びに飛び出したのは、人気者のボードビリヤン、トニー・谷。
「レディーアンド・ジェントルマン、お父ちゃん、お母ちゃん……」
ドッとわき起る笑声、早やポッポちゃんは、感激のあまり震えている。モウこれで何回目かしら、同じものを毎日見に来ているという四人連れは、伸び上ってひっくり返りそう、舞台より客席の方がよっぽどホット・ジャズ的ではある。
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