もなく、人混の中に消えて行ってしまった。
「ヘヘエ、小野のオジさん連れてってね――」
十六娘のくせに、ちょっとウィンクした。
「うちのお母さん馬鹿なのよ、私がジャズを勉強して、素晴しいジャズ・シンガーになる、そうすれば美空ひばりや江利チエミのように有名になるでしょう、素晴しいわ、一本の映画出演料が二百万円、一回の舞台出演料が十万円、私の眼が鳩のように可愛いいってポッポていうのよ、芸名は鳩ポッポとするわ、すごいなあ、そうなれば、お母さんも豪勢な家に住めるし、自家用車も二台位もてるのに、神ならぬ身の知るよしもなく、お母さんたらジャズ娘、ジャズ娘って怒るのよ」
アア世はまるで熱病か台風のように、日本全土は猛烈な勢いでジャズ熱に浮かされているのである。救われざるジャズの群の一人ポッポちゃんも、ここに早や百度程度の高熱患者である。
「サァ、おじさん早く行こう、レッスンしに」「レッスン?」
「ポッポにとっては国際劇場は教室よ」
アアわれここに至りては負けたり、歩くのにもジャズの如く踊りの如く、人の流れにおし流されて行ったのである。
超満員のホット・ジャズ
「おじさん素晴しい
前へ
次へ
全7ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小野 佐世男 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング