もなく、人混の中に消えて行ってしまった。
「ヘヘエ、小野のオジさん連れてってね――」
 十六娘のくせに、ちょっとウィンクした。
「うちのお母さん馬鹿なのよ、私がジャズを勉強して、素晴しいジャズ・シンガーになる、そうすれば美空ひばりや江利チエミのように有名になるでしょう、素晴しいわ、一本の映画出演料が二百万円、一回の舞台出演料が十万円、私の眼が鳩のように可愛いいってポッポていうのよ、芸名は鳩ポッポとするわ、すごいなあ、そうなれば、お母さんも豪勢な家に住めるし、自家用車も二台位もてるのに、神ならぬ身の知るよしもなく、お母さんたらジャズ娘、ジャズ娘って怒るのよ」
 アア世はまるで熱病か台風のように、日本全土は猛烈な勢いでジャズ熱に浮かされているのである。救われざるジャズの群の一人ポッポちゃんも、ここに早や百度程度の高熱患者である。
「サァ、おじさん早く行こう、レッスンしに」「レッスン?」
「ポッポにとっては国際劇場は教室よ」
 アアわれここに至りては負けたり、歩くのにもジャズの如く踊りの如く、人の流れにおし流されて行ったのである。

       超満員のホット・ジャズ

「おじさん素晴しい
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