校によつて生じた空白は大きかつた。自業自得の報ひがやつてきた。
暑いさ中を一日机にとりついて居らねばならぬ情なさ……。殊に英数は問題にならぬほどおくれてゐた。それでも吉田先生の厚い御厚意で毎日教へて頂くことになつた。残暑のきびしい中を毎日々々リーダーをかゝへて、市ヶ谷から小田急線の経堂まで通つて、先生お直々に教へていたゞいたのである。
皆が一学期かゝつてやつたところを、私は十日で覚えねばならない。私は勿論だが、先生は私以上に真剣でいらした。叮寧に一つ々々手をとるやうに教へて下さる。発音も滅茶滅茶なら、文法は全然しらぬ、作文もしたことがない――全く初歩の私を「これはかう、かういふときはかう……」と一々親切にみちびいて下さつた。
おぼえなくてはならない単語は、御自身英文のタイプをうつて私に下さり、私がムダな労力を使はずにすむ様にまでして下さつた。私は往復の電車内は勿論、歩きながらもリーダーをよんだけれど、私にはすることがありすぎた。数学もしなきやならないし、国語も、自然研究もしなければならない。
誰も教へてくれるものがないから実に心細い。英語の単語をおぼえにかゝると、ふと、数学の忘
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