ひがけぬ所へつれて行つて頂いてしまつた。
「出かけますよ」とおつしやるので、私もどこへ行くのかわからぬまゝに、叔母様と芳子ちやんとについて行つた。
「どこへ行くの?」私が芳子ちやんに伺ふと「エ? 今日? 宝塚よ」芳子ちやんは事もなげにさうおつしやつた。私は思はずドキツとした。だまつてびつくりした眼をあげた。
 タカラヅカ……。さあ大変なことになつちやつた。叔母様はタカラヅカへつれて行くとおつしやる。私はほんとに困つた。どうしようかと思つた。折角おつしやつて下さるのにイヤとも云へない。私の足は重くなりがちだつた。家ではお父様もお母様もさういふものをお好みにならない。だから宝塚だとか、お芝居だとかは、生れてまだ一度もつれて行つて頂いたことがない。映画でさへ年に何度と数へるほどしかないのだもの。
 だから私たちも又行きたいなどゝ一寸も思はなかつた。お母様方が止むを得ずお出かけの時でも「大きくなつたらつれてつて上げますからね」と云はれて、それを一寸とも不思議と思はなかつた。
 さういふものは大人のみるもの、子供がみてはならないもの、そんな風に信じてゐた。だから今、お父様お母様のお許しも得ずに、
前へ 次へ
全7ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
平山 千代子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング