さういふものをみるのは、何かとても悪い事をする様で心配で/\ならなかつた。(いゝだらうか。お許しもないのに。……いつそわけをお話して止めさせて頂かうか……)私は道々さう考へて憂ウツでたまらなかつた。
 宝塚といふ駅で降りる。実に大変な人の波だ。これがみんな……と思ふと何だか情なくなり、又自分もその一人なんだと思ふと腹立だしくなつて勢ひ無愛想になつた。
「ホラ、あそこに行く人ね、頭を男みたいに刈つた人。あゝいふのが歌劇をするのよ」などと親切に教へて下さる叔母様や芳子ちやんのお言葉にも、
「ヤーねー。どうして男のまねなんかするんでせう」などと、わざと反抗的なことを云つてしまつたりする。
 広い劇場へ這入つて、(ヨシ、私は目をつぶつてみまい。さうすればお父様やお母様のお云ひつけに反かないだらう)と思つた。
 そして、始めの中は叔母様や芳子ちやんにわからない様に、そつと眼をつぶつてゐた。しかし眼をつぶつてゐるにはあまりに長すぎて、たうとう私は心ならずも歌劇をみてしまつた。何だかきれいではあつたが、さつぱりわからなかつた。始めの中こそ、お許しを得てゐないことが気がゝりで、眼は舞台をみながら心は悶
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