。……だけど、どこかイタズラッ子らしい無邪気さがあつた。――今の「みの」の眼はすみきつてゐる。悟りきつてゐる。さういふ深さがある。そして、あゝ、あんなに散歩に行きたがつてゐたのに、つれていつてやればよかつた。あんなに好きな戸山ヶ原だつたんだものと後悔した。
 私はこの四、五日風邪でねてゐたので連れていつてやれなかつたのだ、今日もとび出す前迄ねてゐたのだから。
 しかし、私はもうそんなこと考へる余裕なんてなかつた。別に何といふまとまつたことは考へてもゐなかつたし、又考へられなかつたが、只いろんな気持を、さつきからのいろんなことで頭が一杯だつた。
「……みの!」ハツと我に帰つて呼んでみる。「みの」も我に帰つたやうに眼をあげて、やさしく私をみる。しかし、この静かなひとときも長くはつゞかなかつた。
「……みの」何度目かに呼んだとき、やつぱり可愛く私たちを見上げたが、直ぐ、
 ハツ!……ハツ!……ハツ! と苦しさうに三度大きく首を地につけたまゝ上下にふりながら、あえぐ様に息を吐いた。
 そしてあのきれいにすみ切つたひとみの上には、白い膜がかぶさつてきた。
「あら、変よ。お母様、変よ」
 と云つて
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