けれど、たつた一人の弟とも、心からの友達とも思つてゐる私の身になると、たつた一度……たつた一度でよいから「済まなかつた。今度は人間に生れてこいよ」と云つてもらひたい気がした。
「ミーコ、あの人達を恨まないでやつておくれよ。おまへを憎んで轢いたんぢやない。悪意があつてやつたわけぢやないんだからね……私とおまへはずゐ分仲よしだつたね。私の思つてることをおまへはみんな知つてゝくれたのね。……だけどおまへはもういゝ所へ行かなきやならないのよ。神様のいらつしやるところへ……。でも又私たちはそこであへるんですつて……。待つてゝね。ミーコ。私も今に行くからね」と人がゐなくなると、そんなことを、「みの」の耳もとでさゝやいてみるのだつた。
みの[#「みの」に傍点]は黙つてきいてから、
「えゝ、わかりましたよ。きつと待つてますよ」と云ふやうに私をみ上げた。
獣医さんが自転車でかけつけてくれたのは、もうひかれてから一時間半もたつた四時半ごろだつた。獣医さんが聴診器を出して、「みの」にさわらうとしたら、今迄あんなにおとなしくて、私が頭をなぜても毛一本動かさなかつた「みの」が、鼻の頭に皺をよせて、舌の色ま
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