かもしれない、と思ふ気持を諦めきれないのだつた。
みの[#「みの」に傍点]はかつてない程、静かに落着いてゐた。苦しさうではあつたが、その眼は血走るどころか、不思議なほどに美しくすみきつて、どこかしらぬ遠い空の向ふをみつめてゐた。
私はみの[#「みの」に傍点]の視線を追つて空を見上げた。青くすんだ秋の空に、赤トンボがいくつも/\スイ/\ととんでゐた。
私はもう直ぐ別れなければならぬであらう、可愛い/\ミーコと一しよにその空をきれいだなあ……と思つてみた。
みの[#「みの」に傍点]を轢いた自動車の運転手さんがあやまりに来た。そして御主人にお詫びしなければならないのだが、急ぐ荷物をのせてゐるから帰してくれと云つた。
「あやまちは仕方がありません。あなたも御運が悪かつたのです。どうぞ御心配なくお引とり下さつて結構ですから」とおばあ様も、お母様もさう慰めておやりになつた。
私もちつとも運転手さんをにくむ気持はおこらなかつた。只……只、一度だけ、その為に死んで行く「ミーコ」に頭を下げてもらひたかつた。
それはあの人達、後悔してあやまつてゐるあの人達に対する辱かしめではあるかも知れない
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