《きれ》が、鵠《こう》の鳥《とり》の形に畳んである、その嘴のところに、薄赤の莟を一つづつ挾んだ。それからお嬢さんのナイフやフオオクの置いてあるところへは、中に寄せて小さい花を、外廻りに大きい花をばら蒔く。実に立派である。それでもまだ気が済まないのか、どの鉢の上にも、控鈕に插すやうな花を一つづつ載せた。
 主人は食堂へ出て来た。燕尾服に白襟を附けて、綬《じゆ》を佩《お》びてゐる。
 主人は卓の前に立ち留まつて、卓と婆あさんとを見較べてゐる。
 婆あさんは主人の顔をぢつと見てゐる。
「どうもこんな風では」と、主人がつぶやいた。
「それでも旦那様もお召をお改め遊ばしたではございませんか」と、婆あさんが云ふ。
 暫く二人は睨み合つて黙つてゐた。
「あの、シヤンパンのコツプを出しました」と、婆あさんが口を切つた。
「うん。出してあるな。」
「最初に鶉《うづら》を上げる事になつてゐます。お嬢様のお好な。」
「ふん。そんなに甘やかしてどうするのだ。」
「でもあなたが廃せと仰やれば致しません。」
 主人は時計を出して見た。もう時刻迄に二三分しかない。お嬢さんが今にも帰つて来る筈である。
「お前降りて行
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