いゝや。お前が甘やかすのだ。」
「さあ。それはさうでございますが、旦那様、あなたが廃《よ》せと仰やれば、致しません。(間《ま》)。薔薇を切つて参りませうか。」
「うん。」主人はくるりと背中を向けて内へ這入つた。
――――――――――――
午食《ひるしよく》の一時間前に、ボヂル婆あさんは、お嬢さんのお好な、刺繍のある着物を着て、薔薇を切りに花壇へ出た。
中庭の花壇では足りないので、花園の花壇のをも切つた。主人が幾ら厭な顔をしても為方《しかた》がないのである。
ボヂルといふのは、この別荘に附物の婆あさんである。御本宅で、お嬢さんがまだ生れない内から勤めてゐた。十年前に奥様が亡くなつてからは、この婆あさんが内ぢゆうの事を、誰が言ひ附けたともなく、引き受けてしてゐるのである。
食堂には、食卓の準備がしてある。そこへ婆あさんは籠に一ぱい薔薇を持つて来て、飾り始めた。食卓に載せる、小さい花瓶が六つあるのに、二輪づつ花を插して、二つづつ並べて、卓の中通りに置いた。実に美しい。それから盤に花を盛つたのを卓の四隅に置く。それから枝を卓の上一ぱいにばら蒔く。主人とお嬢さんとの膝に掛ける巾
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