ては困るぢやないか」と、主人が云つた。
「だつて立派ぢやありませんか。」
「なんだ。まるで仮装舞踏に行くやうだ。町のものが呆れるだらう。」
「それは町の人は気違ひだと思ふでせう。好いわ。ヤコツプやあ。さあ、車をお出しよ。ボヂルやあ。お午の時テエブルの上を薔薇で飾つて置くのだよ。好いから薔薇を沢山お切りよ。」お嬢さんは笑ひながらかう云つた。「そんならお父う様、行つて参ります。さやうなら。ヤコツプや。お出しよ。」
技手は柁機を廻した。自動車はゆつくり花壇の周囲《まはり》に輪をかいて、それから速度を早めて、跳《をど》るやうに中庭を走つて出て、街道に続く道の、菩提樹の並木の間に這入つて行く。
石段の上には主人とボヂル婆あさんとが残つて、見送つてゐる。
「まあ、なんといふ可哀《かはい》いお嬢様でございませう。あの薔薇の中に埋まつて入らつしやつたお美しさつてございませんね。」ボヂルはかう云つた。
「馬鹿な奴だ」と、主人は云つた。
「どれ、お午のテエブルに載せる薔薇を切つて参りませう。」
「どうも甘やかして育てたもんだから困る。」
「さやうでございますね。旦那様は随分お可哀がり遊ばします。」
「
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