るのだい。まだ薔薇を持つて来させるのか。」
「好いから、お父う様、あなたはそこに入らつしやいよ。」
「それでもお前はまるで薔薇に埋まつてしまふぢやないか。」
「わたし埋まりたいのだわ。」
家来は自動車の明りを付けるものを脱《はづ》して、その跡へ、花の一ぱい咲いてゐる薔薇の枝を三本插した。
お嬢さんは傍にあつた薔薇の枝を一掴み取つて、婆あさんに渡して、かう云つた。
「これをねえ、わたしの体の周囲へ振り蒔いておくれ。それから幌の上にもね。」
「それではお嬢様、あんまり。」
「それならお父う様、蒔いて下さい。」
「なんだ。そんな馬鹿げた事を、己まで一しよになつてして溜まるものか。」
「そんならわたし自分でするわ。」
お嬢さんは花をむしつて、自分の周囲と幌の上とに蒔き散した。薔薇の中にもぐつて坐つてゐるやうである。
「それからねえ。ヰクトルやあ。お前はこの薔薇を控鈕《ボタン》の穴にお插し。ヤコツプやあ。お前もお插し。」
技手も、家来も微笑《ほゝゑ》みながら胸を飾つた。
お嬢さんは帽子の帯に一枝插して、胸にも花を一つ插した。
「さあ、これで好いから出掛けるよ。」
「そんな風をして町へ出
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