が、なるたけ入口に近く地歩を占めようとして、次第次第に簇《むら》がつて来た。各《おの/\》番号の打つてある札を持つてはゐるが、遅く往つたら這入られまいかと云ふ心配をしてゐる。それは偽札が出たと云ふ噂を聞いたので、番号が重なつてゐるかも知れぬと思ふのである。そのうち群集が危険な大さになつた。曲馬を見ようとする段になると、大商店の主人も貧乏極まる織屋職工と同じやうに、神聖なる権利のために奮闘する。実は今になつて見ると、息張《いば》つて車に乗つて晩の見物に来た富豪が、心の内で現に場内の暖い席にゐる貧乏人を羨んでゐる。
 元日は馬鹿に寒かつた。毛皮外套を被《き》ても、ゴム沓《ぐつ》を穿いても余り長く外に立つてはゐられない。せぎ合つてゐる人の体のぬくもりは、互に暖めはしないで、却て気分を悪くする。そこで老人連はもういやになつて来たが、一しよに来た若い人達は早く見たがつて胸を跳らせてゐる。兎に角皆気がいらつて来てゐる。
 やつとの事で電燈がぱつと附いた。昼の興行が済んだのである。
 入口に構へてゐた警部が呼んだ。「さあ/\皆さん。少しあとへお引なさい。両側へお寄なさい。道をあけて、中にゐる連中を出
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