アに滞留してゐる筈の、最後の数週が次第に過ぎ去つてしまふ。僕はジユリエツトと差向ひになることがめつたに無い。ブラウンの怪我は早く直つたので、ブラウンか細君かのうちが、始終ジユリエトと僕との間に介《はさ》まつてゐる。そして出立の期が迫つて来る。さていよ/\フランクフルトへ帰る前になつて、ブラウン夫婦は此旅行の記念品を買ひに、スタンビユウルの大勧工場へ往くと云つて、僕をさそつた。或る日の午後、僕等は勧工場の中に這入つて、装飾品の売場から薫物《たきもの》の売場へ、反物の卓から置物の卓へとあちこちうろついた。丁度僕等があの信用の出来ない程古い家具の陳列してある、ベゼスチンと云ふ室に来た時、ジユリエツトとブラウン夫婦とが何か買物をし掛けてゐたので、僕は種々の人の込み合つてゐる中に一人居残つた。僕は連を捜しに出掛けようとしたが、その時ふと気が附いて見れば、一人の男が自分の売場に立つて、多勢《たぜい》の人の頭を見越して、僕に手招《てまねき》をしてゐた。
 その男は武器を売る、髯の長い大男である。拳銃や、トルコ刀や、ヤタガンと云ふ曲つた刀《たう》や、匕首《ひしゆ》なんぞの種々な形をしたのが、その男の前
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