《で》には水に枕《のぞ》みてつき出したる高殿《たかどの》の一間《ひとま》あり。この「バルコン」めきたるところの窓、打見るほどに開きて、少女のかしら三つ四つ、をり畳《かさ》なりてこなたを覗《のぞ》きしが、白き馬に騎《の》りたりし人はあらざりき。軍服ぬぎて盥卓《たらいづくえ》の傍へ倚《よ》らむとせしメエルハイムは、「かしこは若き婦人がたの居間なり、無礼《なめ》なれどその窓の戸|疾《と》くさしてよ、」とわれに請《こ》ひぬ。
 日暮れて食堂に招かれ、メエルハイムと倶《とも》にゆくをり、「この家に若き姫《ひめ》たちの多きことよ、」と問ひつるに。「もと六人《むたり》ありしが、一人はわが友なるファブリイス伯に嫁《とつ》ぎて、のこれるは五人《いつたり》なり。」「ファブリイスとは国務大臣の家ならずや。」「さなり、大臣の夫人はここのあるじの姉にて、わが友といふは大臣のよつぎの子なり。」
 食卓に就きてみれば、五人の姫たちみなおもひおもひの粧《よそおい》したる、その美しさいづれはあらぬに、上の一人の上衣も裳《も》も黒きを着たるさま、めづらしと見れば、これなんさきに白き馬に騎りたりし人なりける。外《ほか》の姫
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