文づかひ
森鴎外
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)星《ほし》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)黒|天鵝絨《ビロード》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「榮」の「木」に代えて「糸」、第3水準1−90−16]
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それがしの宮の催したまひし星《ほし》が岡《おか》茶寮《さりょう》の独逸会《ドイツかい》に、洋行がへりの将校次を逐《お》うて身の上ばなしせし時のことなりしが、こよひはおん身が物語聞くべきはずなり、殿下も待兼《まちか》ねておはすればと促されて、まだ大尉《たいい》になりてほどもあらじと見ゆる小林といふ少年士官、口に啣《くわ》へし巻烟草《まきタバコ》取りて火鉢《ひばち》の中へ灰振り落して語りは始めぬ。
わがザックセン軍団につけられて、秋の演習にゆきし折、ラァゲヰッツ村の辺にて、対抗は既に果てて仮設敵を攻むべき日とはなりぬ。小高き丘の上に、まばらに兵を配りて、敵と定めおき、地形の波面《なみづら》、木立《こだち》、田舎家
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