だりに結ひし真砂路《まさごじ》一線《ひとすじ》に長く、その果つるところに旧《ふ》りたる石門あり。入《い》りて見れば、しろ木槿《もくげ》の花咲きみだれたる奥に、白堊《しろつち》塗りたる瓦葺《かわらぶき》の高どのあり。その南のかたに高き石の塔あるは埃及《エジプト》の尖塔《ピラミッド》にならひて造れりと覚ゆ。けふの泊《とまり》のことを知りて出迎へし「リフレエ」着たる下部《しもべ》に引かれて、白石《はくせき》の階《きざはし》のぼりゆくとき、園の木立を洩《もる》るゆふ日|朱《あけ》の如《ごと》く赤く、階の両側《ふたがわ》に蹲《うずくま》りたる人首《じんしゅ》獅身《ししん》の「スフィンクス」を照したり。わがはじめて入る独逸貴族の城のさまいかならむ。さきに遠く望みし馬上の美人はいかなる人にか。これらも皆解きあへぬ謎《なぞ》なるべし。
四方《よも》の壁と穹窿《まるてんじょう》とには、鬼神《きじん》竜蛇《りょうだ》さまざまの形を画《えが》き、「トルウヘ」といふ長櫃《ながびつ》めきたるものをところどころに据《す》ゑ、柱には刻《きざ》みたる獣《けもの》の首《こうべ》、古代の楯《たて》、打物《うちもの》など
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