脱ぎかへて憩《いこ》ふべし。」といふをあとに聞きなして随行《したがいゆ》くに、尖塔《ピラミッド》の下の園にて姫たちいま遊の最中《もなか》なり。芝生のところどころに黒がねの弓伏せて植ゑおき、靴《くつ》の尖《さき》もて押へたる五色《ごしき》の球《たま》を、小槌《こづち》揮《ふる》ひて横様《よこざま》に打ち、かの弓の下をくぐらするに、巧《たくみ》なるは百に一つを失はねど、拙《つたな》きはあやまちて足など撃ちぬとてあわてふためく。われも正剣《せいけん》解《と》いてこれに雑り、打てども打てども、球あらぬ方《かた》へのみ飛ぶぞ本意《ほい》なき。姫たち声を併せて笑ふところへ、イイダ姫メエルハイムが肘《ひじ》に指尖《ゆびさき》掛けてかへりしが、うち解けたりとおもふさまも見えず。
 メエルハイムはわれに向ひて、「いかに、けふの宴おもしろかりしや、」と問ひかけて答を待たず、「われをも組に入れ玉へ、」と群のかたへ歩みよりぬ。姫たちは顔見あはせて打笑ひ、「あそびには早《はや》倦《う》みたり、姉ぎみと共にいづくへか往《ゆ》きたまひし、」と問へば、「見晴らしよき岩角わたりまでゆきしが、この尖塔《ピラミッド》には若
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