妄想《まうざう》に耽りながら此中の道を歩く人に伴侶を与へるためか、穹窿《きうりう》には銅で鋳た種々《いろ/\》の鳥獣《とりけもの》が据ゑ附けてある。最初這入つた一室の奥には第二の瑣暗い室がある。その又奥には第三の全く暗い室がある。こゝでは只水の滴たり落ちる声が聞える。それがこの寂寞の境の単調な時間の推移を示す天然の漏刻《ろうこく》かとあやまたれる。床《とこ》にはひどい凸凹《とつあふ》がある。己は闇の中を辿つて行くうちに足を挫きさうになつた。その先きは低い隧道《すゐだう》になつたので、己は腰を屈《かゞ》めて進んだ。折々岩角が肩に触れる。暫く歩くうちに屈めた腰が疲を覚えて来た。己は推測した。多分此道はわざと難渋にしてあるのだらう。こゝを通り過ぎて、又日の目を見、軽らかな空気を呼吸する時の喜を大きくするために、わざと難渋にしてあるのだらうと云ふのである。此推測は吾を欺かなかつた。潜り抜けて出た処は、絶勝の地点で庭園の全体は勿論、別荘の正面と其|石柱《いしばしら》の美しい排列とをも見わたすやうになつてゐる。晴れ切つた空を、別荘の屋根の線がかつきりと横断してゐる。己はこれを眺めながら、あさまつげ
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