ようとした。そして持前のしんねりむっつりした様子で、妙な話をし出した。

       参

 戸川は両手を火鉢に翳《かざ》して、背中を円くして話すのである。
「そりゃあ独身生活というものは、大抵の人間には無難にし遂げにくいには違ない。僕の同期生に宮沢という男がいた。その男の卒業して直ぐの任地が新発田《しばた》だったのだ。御承知のような土地柄だろう。裁判所の近処《きんじょ》に、小さい借屋をして、下女を一人使っていた。同僚が妻を持てと勧めても、どうしても持たない。なぜだろう、なぜだろうと云ううちに、いつかあれは吝嗇《りんしょく》なのだということに極《き》まってしまったそうだ。僕は書生の時から知っていたが、吝嗇ではなかった。意地強く金を溜《た》めようなどという風の男ではない。万事控目で踏み切ったことが出来ない。そこで判事試補の月給では妻子は養われないと、一図《いちず》に思っていたのだろう。土地が土地なので、丁度今夜のような雪の夜が幾日も幾日も続く。宮沢はひとり部屋に閉じ籠《こも》って本を読んでいる。下女は壁|一重《ひとえ》隔てた隣の部屋で縫物をしている。宮沢が欠《あくび》をする。下女が欠を
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