る。そんな時に電報を打つ人もあるかも知れない。これは少し牛刀鶏を割《さ》く嫌《きらい》がある。その上|厳《いか》めしい配達の為方《しかた》が殺風景である。そういう時には走使《はしりつかい》が欲しいに違ない。会杜の徽章《きしょう》の附いた帽を被《かぶ》って、辻々《つじつじ》に立っていて、手紙を市内へ届けることでも、途中で買って邪魔になるものを自宅へ持って帰らせる事でも、何でも受け合うのが伝便である。手紙や品物と引換に、会社の印の据《す》わっている紙切をくれる。存外間違はないのである。小倉で伝便と云っているのが、この走使である。
 伝便の講釈がつい長くなった。小倉の雪の夜に、戸の外の静かな時、その伝便の鈴の音がちりん、ちりん、ちりん、ちりんと急調に聞えるのである。
 それから優しい女の声で「かりかあかりか、どっこいさのさ」と、節を附けて呼んで通るのが聞える。植物採集に持って行くような、ブリキの入物に花櫚糖《かりんとう》を入れて肩に掛けて、小提灯《こぢょうちん》を持って売って歩くのである。
 伝便や花櫚糖売は、いつの時侯にも来るのであるが、夏は辻占《つじうら》売なんぞの方が耳に附いて、伝便の
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